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Last Update 2015.5.23

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Fw:

「時代遅れだと思うかい?」「大切なのは、速度だけじゃないよ」

1.

君はずいぶんとおかしなことを言う。試しに、君が言ったばかりの言葉を、繰り返してみる。

「君の代わりに、伝えにきた」

俺が繰り返した君の言葉に、君は同意する。「そう、あなたの代わりに」二人称が変わる。ところで、君は誰だ?

「あなたは、椎名くんでしょ?」

俺の名前を知っている君は、誰なんだ?

「この町で、君の名前を知らない人は誰もいなかった。10年前なら」

10年前なら。

「いろんな人がいたね。朱色の音符に歌を乗せる人、誰よりもキスが早い人」

「ペットボトルの中に人をみる男」

「その人は、知らない」

「そうか。君が話した二人なら知ってるよ」

10年前の、だけれど。今、どこで何をやっているのかは知らない。

「ギターレスバンドのレンは知っている?」

「知ってる」

「レンにギターがいない理由は?」

「知ってる」

「じゃあ、見えないけれど聞こえる人のことは?」

「知っている」

「彼を、助けてほしい」

「君は、彼の友達? 恋人?」

「知らない。いや、分からない」

「君の名前は?」

「答えたくない」

「俺も答えたくないときがある。理由を訊いてもいい?」

「比べられたくないから。椎名くんは煙草やめたの?」

名乗ることが、比較の始まりに? よく分からない。

「やめてない。仕事中は吸えない」

「何時に終わるの?」

午前5時、俺は答えた。君は、酒代をカウンターに置く。水曜日の午前2時、客は君の他には誰もいなかった。

「朝ご飯か昼ご飯を一緒に食べよう」

「俺が眠いなら昼まで待つという意味?」

「うん」

「君が眠くないなら朝ご飯を食べよう。どこがいい?」

「東口にある喫茶アカツキは知ってる?」

「知ってる」

「そこで待ってる」

「ここじゃ駄目? 他に誰もいないし」

「あなたを探すために、だいぶ寝ていない。少し休みたい。けれど、ここで寝るのは嫌」

「ソファの一つでもあればいいんだけどね」

「そういう問題じゃない。けれど、ありがとう。本当は、お酒も苦手」

席を立ち、店を出る君の背中をみる。もう一度、君の言葉について考える。

君の代わりに、伝えに来た。

俺の代わりに? 君が?

どのような状況なら、成立するだろうか。しばらく考えたけれど、分からなかった。

since 2015.5.23

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